2013年12月5日木曜日

ビジュアルで考えること(その2)

シリーズ「ビジュアルで考えること」
その1 なぜ必要か? > その2 何ができる? > その3 創造現場の今



会議をビジュアル化することのメリットについて、前回のブログでご紹介しました。
今回は、仕事をしていく中で、どのような場面で活用できるのかについて触れていきます。

思考を助け、深める、ビジュアライズの役割


1.  ブレストで、イメージを掻き立てる


 アイディアを出しあう会議、ブレインストーミングでもビジュアライズは活用できます。例えば、未熟なアイデアを1枚の絵に描きだすこともその一つ。
 未熟なアイデア、すなわち「よくわからない意見」は、共感もされなければ、すぐに忘れられてしまいます。しかし、絵に描かれることで、なんとなくわかる状態になり、アイデアとして形をもって存在することができるのです。
 また、絵は多義的でもあります。人によって見たものから違う意味を見出し、新しいアイデアを思いつくことも。見る人の多くにイマジネーションを与え、共感してもらうことができます。



2.  ディスカッションで、意見を構造化する


 ディスカッションの会議でも、ビジュアライズは有効です。例えば、参加メンバー全員の意見を1枚のボードに構造的に整理することもその一つ。
 通常、ディスカッションの議事録は、個人個人がメモとして記述することが多いのではないでしょうか。しかし、意見を全員で共有できるように可視化することで、参加者全員が会議の進捗状況を俯瞰して把握できるようになります。
 また、記述方法についても、意見の“内容”で構造化するようにするだけで、内容にフォーカスした建設的な話し合いに発展します。「違う視点で発言してみよう」という意識を目覚めさせることも。


 3. 意見交換の場で、個々の主張を一覧にする


多くのメンバーが集まり意見交換をする会議でも、ビジュアライズは有効です。例えば、1人1人のスピーチを、それぞれ1枚のボードにグラフィカルに表現することも。
 大きな紙に、スピーカーの特徴と発言背景と主張内容をひと目でわかるように表現します。このようなビジュアルレポートがあれば、耳で聴いていた内容を、見た目で再確認することができ、聴講者は理解を深めることができます。さらに、記録者の解釈を聴講者が再確認することで、人によって異なる解釈に気づいたり、異なる解釈からあたらしい知見を得ることが可能となります。



※ここで紹介した3つのケースは、どれも、記録者の解釈が介入することが許されるケースである。
 (議論の内容が解釈できる程度の知識があることが前提ではあるが)記述の正確性よりも、
 記述することによって新しい発見をもたらし、議論がおき、場が活性化することを目的としている。


クリエイティビティを高めるビジュアライズの役割


1. コミュニケーションを促進し、アイデアを磨き上げる


 上記で挙げた3つケースのように、ビジュアル化された意見、アイデアは、より多くの人に伝わり咀嚼されやすくなる特徴があります。多くの人に伝わり再咀嚼されることで、新しい意味が付加され、切磋され、磨かれる。結果的に、早い段階でビジュアライズされたアイデアは質の高いものになりやすくなります。



2. 想いを探り、強固にする


 また、見えないものを見えるようにできるという点で、ビジュアライズは、人の「想い」を形にすることが可能です。

 新しいサービスのコンセプトをつくる場合、作る人本人の想いを明確にすることが求められます。それは、顧客のニーズを探ってだけいてもわからない。
 「なんのために作るのか?」ものづくりの原点ともなるこの問いに応えるには、客観的に書き出し、構造化し、人の意見と照らしあわせて、理解する、ビジュアライズが効果的です。




シリーズ「ビジュアルで考えること」
その1 なぜ必要か? > その2 何ができる? > その3 創造現場の今





2013年8月5日月曜日

ビジュアルで考えること(その1)

シリーズ「ビジュアルで考えること」
(その1 なぜ必要か? > その2 何ができる? > その3 創造現場の今





話しているうちに、論点を忘れてしまうこと、ありませんか?
会議の内容があまりにも複雑で、思考が停止すること、ありませんか?
話していることや考えていることを「ビジュアル化」できないと、会議は時に、とても難しいものになってしまいます。

特に、創造的で生産的な話し合いの場では、新しいアイデアをぼや〜っと想像したり、発言者の思考背景をおそるおそる推測したりしながら、話すことが多いものです。曖昧な情報の中で会議を進めていくには、図やイラストはとても頼もしく、思考や発想を助けてくれることでしょう。


会議をビジュアル化する


文字に加えて、図やイラストなどで表現することは、ビジュアルデザイン、グラフィックデザインの分野において長い間、展開されてきました。そのビジュアル化の技術を、ワークショプや会議の現場で_リアルタイム_に行う技法として、「ファシリテーション・グラフィック」というものがあります。

ファシリテーション・グラフィックの例


ファシリテーション・グラフィックは、アメリカで1970年代からワークショップや会議などで活用されてきました。図のように、大きな模造紙を使い、色彩豊かに、情報を構造的に記述していきます。(下記事例参照)
ただの“キレイな記録”でなく、チーム力を引き出し、実行力を高めるためのコミュニケーション手法として、注目されています。

会議をビジュアル化する4つのメリット

(「ビジュアル・ミーティングデビッド・シベット著 を参考に、経験から得た知見を付加しています。


1. 参加意識を向上させられる

    • 参加者は、自分の発言が書きとめられると「聴いてもらえた」「存在を認めてもらえた」と感じ、主体的に話し合いに関わるようになる。
    • また、専任の記録者がいることで、自分でとるメモを最小限にして、その場で起こっていることに集中することができる。

2. 全体の関係性が把握できる

    • 書きだされた内容を比較したり、隠れた法則性を見出したりしながら、情報を整理することで、広い視野で情報を捉えることができる。
    • 広い視野で「より大きな全体」を意識しながら情報を整理できるので、参加者の思考のレベルが向上する。

3. 記憶が共有化される

    • リアルタイムに情報を視覚化できれば、視覚化された内容と発言された背景を重ねあわせて記憶することができる。
    • 参加者の言葉、アイデアを適切なフレームワークに落としこめば、参加者の記憶として定着する。
    • 記憶が定着すれば、課題が強く意識され、実行が促進される。

4. 属人性が消せる(※特に日本人の場合)

    • 発言した人間よりも、発言の内容(論理)に注意が向くようになる。
    • 声の大きい人、話の長い人、年齢や地位が上の人の意見でも、一つの意見として対等に扱うことができる。


事例の紹介


さまざまな会議で、セッションで、フォラームで、人と人を結びつけ、チーム力を拡大するために、グラフィックが活用されるようになってきています。グラグリッド社で実施したファシリテーション・グラフィックの一部をご紹介します。



Be visual!


ビジュアルで考えること(その2)へつづく。



シリーズ「ビジュアルで考えること」
(その1 なぜ必要か? > その2 何ができる? > その3 創造現場の今



関連情報

2013年7月9日火曜日

体験を記述すること



体験は、目に見えるだろうか?
その時は見えているつもりだが、後から思いだすことは意外と難しい。
運良く体験の痕跡が残っていたら、それを見て思いだすことができる。
意図的に記録して、意識することでようやく見えてくる。
また、体験した時の高揚感、緊張感、充足感、とまどい、迷い、哀しみ、嬉しさなどのさまざまな感情は、なかなか目に見えず、意識しにくく、記録するのは難しい。

しかし、サービスをデザインする時には、顧客の体験を意図的に設計するために、見える形で表現することが必要となる。
その時に使えるのが、カスタマー・ジャーニー・マップだ。



体験を記述する方法の一つ:カスタマー・ジャーニー・マップ


カスタマー・ジャーニー・マップは、いわば、顧客視点で描かれた体験のモデル図である。日本人が古くから描いていた図会や双六にも似ているし、曼荼羅のようなモデル図にも通じるところがある。「たんけんぼくのまち」でチョーさんが描いていたものも、カスタマー・ジャーニー・マップの一つと言っても良いかも知れない。


多摩美術大学の事例


多摩美術大学では、サービスデザインの演習において、カスタマー・ジャーニー・マップを作成している。その一部を少しだけ見ていただきたい。
実際にサービスを体験し、“そのサービスらしさ”を描き出している。決まった型がなく、多様性のあるカスタマー・ジャーニー・マップが作成されている。

(この事例は、多摩美術大学と株式会社グラグリッドによる産学共同研究のためのサンプルの一部です。)













カスタマー・ジャーニー・マップにおける記述内容


では、カスタマー・ジャーニー・マップにはどんなことを記述すれば良いのか?
アメリカのデザインファームや、コンサルティング会社は、テンプレート手順書を展開してくれている。(参考:関連情報)
しかし、少しつくり込みすぎていて、必要なことがわかりにくい。

そこで、多摩美術大学の吉橋昭夫先生に、カスタマー・ジャーニー・マップの記述内容について伺った。

体験に必要な4つの要素(「インタラクティブデザインの教科書」Dan Saffer・著 参考環境、人、オブジェクト、プロセスに加え、その体験を伝えるための工夫として、感情、タイトル(視点)が必要だという。

1. 環境
・体験のフィールド(店舗の様子、商品配置、場の雰囲気など)
・商品の提供方法(商品の陳列方法、商品の説明方法、ポップの内容など)


・体験した本人、顧客本人
・提供者
・同行者(オーディエンス、体験した本人と同行して共に体験している人)

オブジェクト
・商品、コンテンツ
・体験に影響を与えるモノ、目に見えるもの

プロセス
・手順
・オペレーション、やりとり、対話
・時間の流れ方
・軌跡(フットプリント)

+感情
・感情の種類
・感情のレベル
・感情の変化
・思考内容
・思考内容の入った発言

+タイトル
・タイトル(視点、サービスの特性をどのように捉えたか)


カスタマー・ジャーニー・マップの型


しかし、上記の6つの項目をうまく1枚の絵にすることは、難しいのではないだろうか?
登場する人をすべて書けば1人の感情がわかりにくくなるし、手順を正確に書こうとすれば突発的な出来事は書きにくくなる。
そこで、“そのサービスらしさ”をどう描くか、という検討が必要になる。
サービスらしさを描きわけるために参考となる考え方を紹介したい。
「記述レイアウト」と「記述視点」である。




Webサービスのユーザー・エクスペリエンス・デザインなどでを検討される、カスタマー・ジャーニー・マップは、「時間型レイアウト」に該当するものが多い。
しかし、実店舗の体験までを含むと、「空間型レイアウト」や「時空間型レイアウト」によって記述する必要がでてくる点は興味深い。




サービス全体像を捉えることを目的とした「俯瞰的視点」は、サービス評価に用いられることが多い。
一方、「当事者視点」のカスタマー・ジャーニー・マップは、感情移入しやすく、新しいサービスを発想する助けになる。


体験をスケッチしよう!


さて、カスタマー・ジャーニー・マップを書くために、まずは、簡単にスケッチから始めてみてはいかがだろうか。
2つの体験スケッチボード。ぜひ、DLして使ってみてください。


時間型の体験スケッチボード

空間型の体験スケッチボード



この記事に関するお問い合わせ、ご質問はこちらからどうぞ。
担当:株式会社グラグリッド 三澤


関連情報
三澤直加, 尾形慎哉(株式会社グラグリッド), 吉橋昭夫(多摩美術大学)
[facebook] 多摩美術大学 吉橋先生研究室(サービスデザインゼミ)

カスタマージャーニーマップ事例、テンプレートなど
adaptiv pathの Experience Map事例 (英語)
●This is Service Design Thinking の Customer Journey Canvas(pdf, 英語
SMS Researchのカスタマー・ジャーニー・マップ作成手順書(Creating a Customer-Focused Customer Experience Journey Map)(pdf, 英語)
SMS ResearchのJim Tincherによる、Customer Journey Map – the Top 10 Requirements(英語)
●[blog] ビジュアルシンキング事例収集所
ぐらぐり君が行く, おどうぐ箱 (体験スケッチボードテンプレート)


2013年4月16日火曜日

ぐらぐり君、サービス学会へ行く

4月10日、11日に開催された、サービス学会 第1回国内大会に参加してきました。


会場は京都 同志社大学

第1回目の開催にも関わらず、およそ220名もの方が集まりました。
発表数は、口頭発表とポスター発表をあわせて86。
3つの部屋で行われたパラレルセッションでは、立ち見になる場面もありました。


一般公開プログラムの様子

発表内容はというと、飲食、観光、流通、医療、交通など、さまざまなサービスに関する研究から、サービスに関する人材、教育などの分野、さらには、製造業におけるサービスなど幅広いものでした。

ポスター発表の様子 スーツの方が多い

初回の大会ということもあり、業界間ギャップが大きく、「サービス」に対する認識のズレもかなりありました。しかし、それもまた面白いところなのでしょう。会場全体が大きなブレストの場となっていました。

発表内容の傾向としては、
サービス工学の「最適設計ループ」産業技術総合研究所の説明ページ
をベースにしているものが多く見受けられました。
これは、「観測」>「分析」>「設計」>「適応」という流れで、
サービスを工学して現場に適応しよう、という開発プロセスのようなものです。
サービスデザインのアプローチと違い「分析」に重点的に行われているのが特徴的です。

今回は「研究者」のための発表の場、といった雰囲気でしたが、
今後はもっと「実務者」との交流が増えていくことと思います。
サービス向上のために幅広い知見が集まる場となっていくことを期待しています。








2013年1月15日火曜日

ぐらぐり君、多摩美術大学へ行く

1月12日に多摩美術大学でService Design2012公開プレゼンテーションが開催されました。
Service Design2012は、情報デザイン学科デザインコースの吉橋先生が中心となって指導されている3年生が対象の授業です。吉橋先生から、グラグリッドの尾形が外部講師としてお声がけいただき、参加いたしました。

今回のテーマは、「Shopping」。
Shoppingを通して、豊かな経験を支えるサービスをデザインするという捉え方がなかなか難しいテーマに対して、7つのグループが美大生らしい創造性豊かなアイデアを展開し、サービスに使う具体的なツールまでデザインされていました。
7つのサービス提案
UNIME
PLAMO BAR
C-Selection
おたま
Memorrium
DAY+U
香り花屋

各グループとも、検討の際に、利用者の経験を可視化するためにアクティングアウトを取り入れたり、CJM(Customer Journey Map)を作成されていましたが、その効果は高いことを改めて魅(?)せつけられました。これによって、よいサービスをデザインするために必要な要件、ポイントをあぶり出されていました。

逆に、最終発表という場ではありましたが、サービスのイメージが聴衆にも伝わりやすいので、もっとサービスを良くするための建設的なコメントも多く寄せられていました。

また、各グループとも顧客側からすればサービスを受ける瞬間に必要となる具体的な「ツール」までを作り込まれていたことが、この授業の特徴でした。さらに、そのクオリティが高い!
アクティングアウトの様子
Customer Journey Mapの一例
UNIME(漫画共創プラットフォーム)のデザイン
提案されていたアイデアの対象を変えれば新たな価値を生み出すビジネスにつながる可能性もいくつか感じました。【おたま】【Memorrium】【UNIME】などの提案にもありましたが、サービスデザインの検討を進めていくと、地域やコミュニティを巻き込んだデザインにたどり着いている点も、興味深かったです。

今回の公開プレゼンテーションは、具現化の力をものすごく感じました。
美大生らしいサービスデザインのアプローチですね。



2013年1月4日金曜日

サービスデザインに関する本の紹介ビデオ

楽しくてわかりやすいビデオをご紹介します。
This is Service Design Thinking」のブックトレーラービデオです。



・サービスデザインとは何か
・サービスデザインに必要な5つの役割
・顧客志向アプローチ(ユーザー中心設計)
・共創プロセス
・視覚化
・サービスデザインで使えるさまざまなツール
これらの要素が、「This is Service Design Thinking」という本に入っているよ!
というビデオです。



日本語版の書籍、待ち遠しいですね。

2013年1月3日木曜日

新年のご挨拶


2013年が健やかで、実りある1年でありますように。
本年もたくさんの方にお会いできること、楽しみにしております。